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あえて病的な人格を呼び出して話をすることによって自分自身の正常性を再確認しようというこの企画、今回の相手は「自分うつ病バージョン」です。それでは、よろしくおねがいしまーす。
「よろしくお願いします」 さあ、じゃあまずは無難にお仕事の話でもしようか。現在俺たちは、小さいとは言えない規模の会社で、営業として働いている。 「このあいだ課長になりましたね」 そうそう。大きな仕事を任せられるようになってさ、俺が会社を動かしているんだなーって感じがしてるよね。 「まあ、毎晩客と飲みに行ってるおかげで体調崩してるけどね」 課長になったのは、片桐さん辞めたから、俺らに課長の肩書をつけておかないと格好がつかないからなあってことだよ。本当に実力があるんだったら二年前にとっくに課長になってたはずだから。それに、一緒に飲みに行ってる人たちだって、昔片桐さんに紹介された人なわけでしょ。向こうだって古い付き合いがあるから付き合ってくれてるだけだと思うよ。 「いやでも、プライベートでも仲良いぜ。この間一緒にタイ旅行に行ったし。」 家族引き連れて旅行じゃなくて、俺たちとあいつとあいつの会社の同僚の3人だけでだろ。何がプライベートだよ。仕事の関係から抜けてねーじゃねえか。 「確かに家族ぐるみの付き合いってわけじゃないが、旅行に俺らを呼んでくれたのは、俺らがいれば楽しいと思ってくれたからだよ」 そりゃ人が多ければ楽しいだろ?頭数を揃えただけさ。別に俺たちじゃなくても良かったんだって。旅行でも、仕事でも。 そうそう仕事にしても実際、そんな大したことしてないぜ。俺たちじゃなきゃできないことって、無いだろ。他の誰でもできるのさ。 「そんなことないさ。俺たちはこの会社を引っ張ってるくらいの仕事をしてる」 俺たちさ、片桐さんにはかなわないな、とか思ってたろ? 辞めるって聞いたときにはこの会社どうなるんだろうとか思ったじゃん? でも実際、片桐さんいなくなっても何の問題もなかっただろ。俺らが会社を辞めたところで同じことさ。 「うーん。そうかなあ。まあ確かにそうかもしれない。まあ社員は会社の歯車って部分はあるから」 俺らの会社が社会の歯車になっているかどうかは怪しいけどね。ただの寄生虫かも。 「しかし実際、そうやって稼いだ金で妻と子供を養ってる。家族にとっては、俺たちの存在は十分に役に立ってる」 それこそ、誰でもいいじゃないか。もし俺たちが妻と知り合って結婚してなかったら、妻は他の誰かと結婚して子供を産んで幸せに暮らしてただろう。俺でなきゃいけない理由は、別にない。 「あるさ!俺と家族の間には、愛があるんだ。」 愛とはまた実にカビの生えたものを持ち出してきたね。俺らは妻に対しては口にするほどそんなにしょっちゅう愛を感じてないし、向こうにとってもそれは同じだって。確かに息子は大事に思っているけど、息子は、父親が好きかな? 学校の先生のほうが好きなんじゃないか? 「そうだ、愛があるんだ。俺たちは愛する家族のために自分を犠牲にして金を稼ぐ。そういう意味がある」 おい、聞いてるか? 「あれ、うつ病バージョンはいなくなったのか? 声が聞こえないぞ。愛の前に消えてしまったか?」 おい、いるって。お前が無視してるだけだ。 「まあいいや。今回の企画はあんまり楽しいものじゃなかったし。もう終わりにしよう。」 おーい。 自分の社会的な評価に関しては、うつ病の人のほうが正確にできると聞く。 我々は『正常』な社会生活を営むために、ある程度の根拠のない自信にすがりついている。家族や友人達と一緒にいて楽しいのは、お互いに褒めあって、傷を舐め合っているから。 誰のためにもならないそういう事実を、人は無視して封印する。自分自身につく嘘も、悪いものばかりじゃない。
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